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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1605号 判決

理由

控訴人が内藤光二に対して被控訴人主張の約束手形一通(以下これを本件手形と略称する)を受取人を白地として振出したことは当事者間に争がなく、(証拠)を総合すれば、本件手形は前記内藤光二から吉村岩太郎へ、吉村岩太郎から被控訴人へ順次交付譲渡せられ、被控訴人がその所持人として被控訴人名義に本件手形の白地受取人欄を補充記載のうえ昭和三七年七月九日手形面上支払場所と記載せられた株式会社神戸銀行三木支店に呈示して手形金の支払を求めたが支払を拒絶せられたことが認められる。

これに対し控訴人は本件手形は前記内藤光二がこれを株式会社兵庫相互銀行で割引を受けて金融を実現する目的に供するために振出したものであつて、若し右割引を受けることの不可能の場合には当然控訴人に返還すべき旨特約して振出したものであり、しかも内藤光二においては結局右割引を受けることができないことになつたものであると主張し、前記控訴人代表者本人尋問の結果の中に右主張に添う供述が存するけれども、被控訴人が本件手形取得の当時において、控訴人と内藤光二との間における右手形振出に関する前記事情の存すること並びに被控訴人の本件手形取得に因つて控訴人が損害を蒙る結果となるべきことを知つていた旨の事実は、控訴人の主張しないところであるし、これを肯認するに足りる何等の証拠資料もない。また吉村岩太郎と被控訴人間における本件手形の授受が控訴人の主張するように、もつぱら本件手形上の権利に関する訴訟行為を追行せしめる目的に出たものであることを認定するに足りる確証は何もない。

(省略)

したがつて控訴人の抗弁はいずれも採用することができない。

次に被控訴人は本件手形を白地補充のうえ昭和三七年七月九日に手形上記載の支払場所に呈示して支払を求めたことは前記認定のとおりであるが、右支払場所の記載は、その具体的記載の内容自体に徴し、手形法所定の呈示期間内における本件手形金の支払が、その記載の場所においてその記載の指示する第三者によつてなされるべきものであることを定めたものと解するのが相当であり、このように第三者方払の記載せられた手形にあつては一般に、若し法定の呈示期間を経過した場合においては、爾後の約束手形の支払呈示は振出人の住所において振出人に対してのみ適法になし得べく、手形上の支払場所に呈示するも適法な支払呈示とはならないものと解せられるから、前記のように呈示した昭和三七年七月九日以後本件訴状送達の時までの間に控訴人の営業所において直接控訴人に対し本件手形を呈示して支払を求めた事実に付何等主張立証のない本件においては、控訴人が本件訴状の送達を受けることにより本件手形上の義務履行につき付滞の効果を生じたものというべきである。

以上によれば被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し本件手形金二〇万円並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日なること記録上明らかな昭和三七年八月二日以降右支払済みに至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払うべきことを求める限度においては正当として認容すべきものであるが、その余は理由がなく棄却すべきものである。これと一部趣旨を異にする限度において原判決は失当であるからこれを右の趣旨に変更する。

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